香港の税制

香港は九龍半島と香港島などからなる、中国の特別行政区です。
温暖な気候で、かつてイギリス領だった歴史も持つ香港は中国文化とイギリス文化がミックスされた活気のある国際都市です。
また、アジアの金融ハブかつタックスヘイブンの一つとしても知られ、日本人にも人気のある海外移住先の一つです。

この記事では、香港の税制について概要を紹介します。

香港の主な税制

香港では、日本の国税庁に相当する香港の行政機関がInland Revenue Department(IRD:税務局)によって税金が賦課・徴収されます。

香港の税制は日本に比べ、非常にシンプルかつ低税率なのが特徴で、大きなものとして以下の3つがあります。

  • ・法人税(事業所得税)
  • ・給与所得税
  • ・資産所得税

なお、香港の課税期間は毎年4月から翌3月(日本は1月から12月)です。

法人税(事業所得税:Profits tax)

香港での法人税にあたるのが事業所得税です。

香港を源泉とする事業利益に対して、法人や非法人に課せられます。香港居住者か非居住者かによる違いはありません。税率は法人・非法人別に所得によって2段階に分かれています。

法人:課税所得2百万香港ドル以下まで8.25%、2百万香港ドルを超えた金額に16.5%

非法人:課税所得2百万香港ドル以下まで7.5%、2百万香港ドルを超えた金額に15%

なお、繰越欠損金が無期限で翌期以降の利益と相殺できるのは香港の事業所得税の特徴です。

また、事業のための交際費などは経費として取り扱うことができ、その金額に上限はありません。

給与所得税(Salaries tax)

名前の通り、給与に対して課せられる所得税です。

香港の給与所得税は日本と同様に累進課税制度が取られており、その税率は2〜17%です。

しかし、実際には給与所得税の算出方法は以下の2通りがあり、どちらか低い方の税額が採用されます。

  1. 1. 所得控除後の課税対象所得に標準税率15%をかけた額
  2. 2. 所得控除後、さらに人的控除を行って算出された課税対象所得に、所得に応じた累進税率をかけた額

なお、香港の給与所得税で定められた所得控除・人的控除には以下のようなものがあります。

【主な所得控除】

  • ・住宅ローン控除
  • ・自己学習控除
  • ・年金や健康保険料の控除
  • ・寄付金控除 など

【主な人的控除】

  • ・基礎控除(独身または既婚によって金額が異なる)
  • ・扶養子女控除
  • ・扶養父母・祖父母控除
  • ・扶養兄弟姉妹控除
  • ・寡婦(夫)控除
  • ・障害者控除
  • ・扶養障害者控除 など

雇用主から給与が支払われる際の源泉徴収の制度がない香港では個人でも確定申告が必要です。
毎年5〜6月頃に税務署から届く「個人所得税申告書」をもとに、6〜8月頃に確定申告を行います。

資産所得税(Property tax)

資産所得税は、香港内に不動産を所有する個人に対する税制です。課税額は賃料収入の80%に対して標準税率15%をかけて求められます。

ただし、賃料収入を得ているのが法人である場合、資産所得税ではなく事業所得税として課税されます。

その他

  • ・印紙税:株式の譲渡もしくは不動産の譲渡で課せられます
  • ・空港利用税:12歳以上1人あたり120香港ドル
  • ・賭博税:競馬・マークシックス(日本のロト6のようなくじ)・サッカーくじが対象
  • ・事業登録税
  • ・物品税:酒・タバコ・炭素(燃料)が対象
  • ・自動車登録税

香港で非課税となる税金の種類

ここまで香港の税制について紹介しました。比較のために日本では課税されるものの、香港で非課税とされる税金の種類を見てみましょう。香港の税制がとてもシンプルだということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

・消費税または付加価値税(酒・タバコ・燃料としての炭素を除く)
・キャピタルゲイン税
・配当税
・相続税
・ホテル宿泊税
・資本登録税
・関税:品目にかかわらず、関税なしで輸入可能
・日本への利子送金
・日本への配当送金

また、日本における住民税や事業税のような地方税の制度もありません。

香港に滞在するためのビザの種類

日本人が香港で働いたり、90日以上滞在するためにはビザが必要です。
主なビザは

  • ・就労ビザ
  • ・短期就労ビザ
  • ・投資ビザ

があります。

就労ビザ

会社で雇用されている人のためのビザで、雇用先の企業がスポンサーとして本人とともに審査を受けて発給されます。申請者は書類を通じて、香港では代わりの人材を見つけにくい能力や経験があることをアピールします。

審査基準を満たしていれば取得が難しいビザではありません。

スポンサーである雇用先の企業は、香港人を雇用していること、オフィスの賃貸契約を結んでいることなどが条件となります。

短期就労ビザ

短期就労ビザは展示会などのような短期間の就労のためのビザですが、新規事業の立ち上げなどのように報酬が発生しない場合でも必要になることがあります。

少しでも該当する可能性がある場合は、事前に必要性の有無を確認しておくことをおすすめします。

投資ビザ

香港で起業家として事業に投資する人のためのビザが投資ビザです。

本人の学歴や職歴に加えて、投資先である香港の法人も審査対象となり、他のビザよりも取得までに時間がかかる傾向があります。

香港が移住先として人気の理由:源泉地主義

アジアのタックスヘイブンとして知られる香港は移住先として人気があり、実際に多くの富裕層が住んでいます。その理由の一つが低い税率ですが、もう一つの理由が香港で採用されている源泉地主義です。

源泉地主義とは

源泉地主義とは、当該国や地域の中で発生した所得にだけ課税することを言います。つまり、香港を源泉とする所得であれば居住者か非居住者かにかかわらず課税する考え方です。

しかし、裏を返せば、たとえ香港に住所を持つ居住者であっても香港以外で得た所得に課税されることはありません。

一方、日本を含めた世界の多くの国では居住者主義が取られています。

居住者主義とは、どこで発生した所得であれ、その国の税務上の居住者が得た所得に対して課税する考え方です。居住者主義を採用している国では、全世界での所得が課税対象となります。

源泉地主義のメリット

源泉地主義を採用している香港では、居住者は香港以外で得た収入(いわゆるオフショア所得)には課税されません。

つまり、香港に住所があれば世界中でどれだけ多くの収入を得たとしても、納税するのは香港内での所得に対して課された税金のみなのです。

この点が香港が富裕層の移住先として人気がある理由です。

2047年までに香港の税制が変わる?

香港は中国の一部ですが、中国本土の税制は香港の税制とは異なります。

たとえば、中国本土では個人所得税の最高税率は45%、企業に課せられる基本法人税率は25%です。この違いはなぜ生まれたのでしょうか。

香港が中国の一部でありながら税制が違う理由は、香港が「一国二制度」を採用していることにあります。

香港は1841年から1997年までイギリス領でした。そのきっかけはアヘン戦争でしたが、1997年7月に香港はイギリスから中国に返還されることになります。しかし、イギリス領だった期間がかなり長かったため、返還と同時にさまざま制度が急激に中国の制度と統一されると住民に混乱が起きる可能性がありました。

そのため、中国は香港返還に際して、返還後も50年間は中国本土とは異なる制度を続けるという約束をしたのです。これが「一国二制度」です。約束に従い、1997年から50年後の2047年に「一国二制度」は終了予定です。

そのため、2047年には香港の税制は中国本土と同じになるのではないかと考えられています。つまり、現在見られるタックスヘイブンのような香港の税制は2047年までに改正される可能性があるのです。特に、最近では香港で中国政府に対するデモが広がったこともあり中国政府の香港に対する姿勢が厳しくなっています。

そのため、2047年よりも早く「一国二制度」が崩壊し、税制が改正されるのではないかという声もあります。

外国人の香港への入境規制について

香港では2019年に逃亡犯条例改正案が提出されたことをきっかけに中国政府に対する抗議活動が活発化し、香港民主化デモとして2020年まで続きました。

その結果、中国政府はデモのきっかけとなった逃亡犯条例改正案は撤回したものの、その他では香港に対する締め付けはかえって厳しくなった面があります。

特に2020年以降、新型コロナウイルスの流行が続いていることもあり、2022年現在では日本から香港に入境できるのはワクチン接種を完了している香港居民のみとされています。

まとめ

香港の税制および香港が移住先として人気がある理由として、香港の税制の特徴である源泉地主義について解説しました。

また、「一国二制度」が終了予定の2047年までには、香港の税制は変更される可能性があることも紹介しました。

将来的に税制が変更される可能性があるとはいえ、香港のシンプルな税制や低税率は魅力的です。多くの富裕層が移住先として香港を選ぶのも納得ですね。具体的には、以下の点が日本人が香港に移住するメリットとして挙げられます。

・シンプルな税制と低い税率
・源泉地主義により、オフショア収入に課税されない
・生活水準が高く、治安も良い
・比較的最近までイギリス領だったため、英語ができる人が多い
・日本と文化が近いアジア圏なので、食べ物などが日本人には馴染みやすい
・日本との時差は1時間のみである(香港の方が日本より1時間遅い)ため、日本の家族やビジネスパートナーと連絡を取りやすい
・海外移住だけでなく海外赴任なども含めると滞在している日本人が多いため、日本食レストランや日本の食材が手に入るスーパー、日系の飲食店の出店なども多く、暮らしやすい

この記事が、香港の税制について知り、香港を移住先として検討する際の参考になれば幸いです。

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