ドイツ、フランス、ベルギーと国境を接し、渓谷が織りなす美しい風景が広がるヨーロッパの小国がルクセンブルクです。
そんなルクセンブルクは以前からスイスとならぶヨーロッパの金融センターとして知られていましたが、近年はアマゾンや楽天などの大企業が欧州本部を構え、またスタートアップ支援や宇宙開発などでも名前が挙がるようになりました。
この記事では、ルクセンブルクが日本人にとっての移住先として向いているのかどうか、主に税金の面から解説します。
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ルクセンブルクとはどんな国か
ルクセンブルクは正式名称をルクセンブルク大公国と言い、人口は約60万人、面積は神奈川県と近い2,586平方kmです。ルクセンブルク語、フランス語、ドイツ語が公用語ですが、国境を接しているフランスやベルギーから働きにきている人も多いため、街中で最もよく使われているのはフランス語です。
ルクセンブルクの特徴は1人当たりのGDPが世界一であること。2019年は約11万5000ドル(1ユーロ=130円なら約1,500万円)で、約4万ドル(同約520万円)の日本の3倍近くあります。
かつて盛んだった鉄鋼業が衰退すると、金融業を誘致するため、積極的に国内法を整備したルクセンブルク。現在ではプライベートバンキングの分野と、グローバルに流通しているファンドの預かり拠点として有名です。そのため、日本企業は金融業(特に信託銀行)の進出が多く見られます。
宇宙開発のスタートアップが集まることでも注目を集める
また、ルクセンブルクでは2010年頃から、特に宇宙開発を中心にスタートアップを支援してきました。経済省が中心となって国籍を問わず、スタートアップ企業を手厚く支援してきた結果、近年では宇宙ビジネスの拠点としてアメリカ、中国とともに名前が挙がるようになったのです。たとえば日本の航空宇宙企業(宇宙ベンチャー企業)であるispaceもルクセンブルクに拠点を置いています。
また、ルクセンブルク政府自身も国策として、地球以外の星の資源を採取・活用するという宇宙資源ビジネスを進めています。常に海外にアンテナを立て、国を挙げて柔軟な法整備で新しい産業を誘致するのがルクセンブルクの伝統と言えそうです。
ルクセンブルクの主要な税制度
ルクセンブルクの主要な税制度として法人税、個人所得税、付加価値税(VAT)について解説します。
税率は概して日本や他のヨーロッパ諸国よりも低く設定されています。
法人税
ルクセンブルクの法人税は低く、その税率は最大で17%であり、タックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれています。
積極的に外国企業を誘致してきたことから、Amazonや楽天、ファナックなどの国内外の有名企業が欧州本部をルクセンブルクに置いています。
以下が所得による法人税率です。
法人の課税所得 | 日本円(1ユーロ=130円で計算) | 法人税率 | 日本の法人税率 |
0〜175,000ユーロ未満 | 0〜2,275万円未満 | 15% | 15%または23.2% |
175,000ユーロ以上〜200,001ユーロ | 2,275万円以上〜2,600万円 | 26,250ユーロ+175,000ユーロを超えた分の31% | 23.2% |
200,001ユーロ超 | 2,600万円超 | 17% | 23.2% |
このように法人税率が低いルクセンブルクには、その恩恵を受けようとして設立されたと考えられる外国企業が多く見られ、その数は5万社以上あるとも言われています。それらの企業の所有者には有名な芸能人やスポーツ選手などの名前もあります。
個人所得税
ルクセンブルクの個人所得税は8%〜42%です。配偶者や子供の有無、年齢で3つのクラスに分けられたうえで、所得に応じて1〜2%刻みで細かく分かれているのが特徴です。
また所得税の算出時には日本の基礎控除にあたるものとして、一人あたり11,265ユーロ(1ユーロ=130円として約146万円)が所得から控除されます。
- クラス1:独身者
- クラス2:結婚しているカップルまたは法律によって認められたパートナー(Civil Partner)
- クラス1a:子供がいる独身者、もしくは課税年度の1月1日時点で65歳以上
同じ所得のとき、適用税率が最も低くなるのがクラス2、次いでクラス1a、最も高いのがクラス1です。
たとえば独身者であるクラス1の場合、最高税率である42%が課せられる課税所得は200,004ユーロ(1ユーロ=130円なら約2,600万円)ですので、日本と比較してあまりメリットはないと感じられるかもしれません。
しかし、同じ200,000ユーロの所得があっても、配偶者がいればクラス2に分類され、税率は約30%程度になります。そのため、結婚されている方は、ルクセンブルクに移住すれば日本よりも所得税を減らせる可能性があります。
VAT(付加価値税)
対象商品 | 付加価値税の税率 |
食品、水道、書籍、子供服など | 3% |
家のクリーニングや自転車や革製品などの修理費、電気 | 8% |
特定のワインや燃料 | 14% |
上記以外 | 17% |
ルクセンブルクにも日本の消費税と同じような付加価値税という税制があります。標準税率の17%も他のEU諸国より低い水準ですが、注目は軽減税率の対象範囲です。
食品や書籍などの生活必需品が軽減税率の対象になる国は日本を含めて多くありますが、ルクセンブルクの場合、軽減税率の段階が複数あり、対象範囲も広いのが特徴です。
ルクセンブルクの付加価値税(VAT)は周辺国よりも低く、たとえば国境を接しているドイツでは標準税率が19%、軽減税率が適用される食品などでもその税率は7%です。
そのため、ルクセンブルクとの国境近くに住んでいる人のなかには日常的にルクセンブルクで買い物をして低い税率のメリットを享受しようとする人もいますが、厳密に言えば、居住国で付加価値税の差額を納める必要がありますのでご注意ください。
ルクセンブルクの社会保障
ルクセンブルクで働く場合、給与の一部から社会保障を支払うのは日本と同じです。会社員の場合、平均して給与の約12.5%、自営業の場合約25%が、健康保険、年金その他の社会保障費として差し引かれます。
ルクセンブルクはヨーロッパのなかで最も健康保険システムが充実している国の一つです。
医師の診察を受けたり、薬を処方されたりした場合、ほとんどの場合でかかった医療費の8〜9割が保険から還付されます。
またルクセンブルクにも年金制度があり、日本とは2017年より社会保障に関する協定を結んでいます。そのため、もしルクセンブルクに移住した場合、日本で年金に加入していた期間をルクセンブルクの年金制度の加入期間と合算、またはその逆ができるようになり、年金受給資格を得やすくなりました。
日本人がルクセンブルクで生活するメリット・デメリット
ヨーロッパの金融センターとして知られ、街中にルイ・ヴィトンなどハイブランドのショップが立ち並ぶこと以外はのんびりとした雰囲気があったルクセンブルクですが、近年、市内中心部が再開発され、印象は様変わりしつつあります。
フランス・パリにもある老舗百貨店のギャラリー・ラファイエットが開業し、市の中心部から空港までの路面電車の路線が建設中です。また2020年からは国内の公共交通機関(主にバス)が無料になりました。
また、ルクセンブルクは美食の国としても知られています。国内にはミシュランの星付きレストランがいくつも存在し、人口あたりのミシュランの星の数は世界で一番多いと言われています。
給与水準が高く、裕福な人が多いルクセンブルクですが、人口が少ないためパリなどのような都会の雰囲気はありません。そのためか、全体的に治安は良いと感じられます。少し古いデータですが、イギリスのエコノミスト紙による世界平和度指数(2013年)では、ルクセンブルクは8位にランクインしています。
またヨーロッパ各都市から定期便が飛び、鉄道や車でのアクセスも良いので、ルクセンブルクに拠点を置き、あちこちを旅するライフスタイルを希望する方にはぴったりでしょう。しかし、デメリットは日本からの直行便がないため、必ず乗り継ぎが必要になること、そして住居費が高いことです。
ルクセンブルク政府の統計によると、2つの寝室がついたアパートの家賃の平均は1,400ユーロ(1ユーロ=130円の場合、約18万円)です。そのため、ルクセンブルクとの国境沿いのフランスやドイツ、ベルギーなどの街に住み、越境通勤をしている人も多くいます。
以下に、日本人がルクセンブルクに住むメリット・デメリットを簡単にまとめました。
メリット
- ・治安が良い
- ・外国人(特に駐在員などのホワイトカラー)が多いので、英語が通じやすい
- ・国内の公共交通機関が無料
- ・ドイツやフランス、ベルギーと国境を接しているため、主要都市へアクセスしやすいので旅行が楽しめる(パリへTGVで約2時間、フランクフルトやデュッセルドルフは車で約2時間)
- ・市街は世界遺産に指定されており、美しい風景が広がる
デメリット
- ・住居費が高い
- ・直行便がなく、少なくとも1回は乗り継ぎが必要なため日本からのアクセスは良くない
- ・小さな国で人口も少なく、決して都会とは言えないため、特に単身者は飽きるかもしれない
まとめ
日本人にとってルクセンブルクが移住先として向いているかどうか、税金の面から解説しました。
法人税、所得税、付加価値税(VAT)のどれをとっても諸外国より税率が低めであるルクセンブルクは、特に家族がいる方で収入が高い方には節税ができる可能性が高い移住先です。また世界遺産にも指定されている市街地は美しく、国土は自然豊かで治安も良いため、落ち着いた生活ができるのが魅力です。
一方で、近年再開発が進んでいるものの、人口約60万人の小国であることから、劇場やバーなどのいわゆるナイトライフを楽しめるようなところは限られてしまいます。
しかし、ミシュラン星付きレストランがいくつもある美食の国ですので、夜はレストランめぐりを楽しめるでしょう。また、なんといっても地理的にフランス、ドイツに囲まれ、飛行機や鉄道、車を使った他のヨーロッパの都市へのアクセスが良い立地ですので、旅行が好きな人にはルクセンブルクは移住先としておすすめできます。
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