日本国内の所得税を始めとした税金徴収は、今後益々増加の一途を辿ることが懸念されており、富裕層にとっては死活問題として知られています。その結果、日本国内から海外へと移住をする方も少なくありません。理由としては税金を節税できることにあります。
移住先によっては同じ収入でも日本より税金を抑えられるケースが多く、節税対策として有効的な方法なのです。海外移住先として近年人気の高まっている国の1つに、ドイツがあげられます。
実際の所、節税対策効果はどの程度のものなのか、日本の税法や海外の税法をはじめ、日本と海外の租税条約について解説します。
日本の税法の特徴
まずは 2021 年現在の、日本の税法の特徴についてご説明します。
日本では現在大きく分けて、国へ支払う国税と呼ばれるものと、各市町村、道府県へ支払う地方税という二種類の税を支払いが義務づけられています。
それぞれ代表的な税はこちらです。
代表的な国税
国税の代表例としては、下記があげられます。
所得税(直接税)
自身の1年間の所得に合わせて支払う税金です。
確定申告を行い自身の所得を確定させた上で金額が決まるのですが、所得が多ければ多いほど支払い金額が高くなります。
法人税(直接税)
法人を営む者が支払う税金で、法人の所得に合わせて金額が決まります。
こちらは所得税とは異なりあくまで法人が対象となりますが、法人経営を行いながら個人でも別で所得がある場合は、所得税と法人税の両方を支払う仕組みです。
相続税・贈与税(直接税)
遺産相続を始め、遺産が他者に渡る際に発生する税金となります。
こちらも異動する金額が高くなればなるほど、支払い金額が高くなるのが特徴です。
消費税・酒税・たばこ税(間接税)
商品を購入する際に発生する税金です。
酒税、たばこ税の場合は消費税とは別途で税が発生します。
商品購入時に購入をしたお店で税を引かれてお店を通じて支払いとなりますので、間接税の一種です。
現在国内において、消費税は購入金額の10%と定められています。
代表的な地方税
地方税は自身の戶籍がある市町村・道府県に収める税金です。
代表的なものはこのような種類があげられます。
市町村⺠税・道府県⺠税(直接税)
自身が住む、または自身が経営している事業所の支店などがある場合に発生する税金です。
いわゆる住⺠税と呼ばれるもので、居住しているだけで発生する税金になります。
自動車税・軽自動車税・固定資産税(間接税)
自動車や軽自動車をはじめ、不動産をはじめとした固定資産を所持している方が支払いを義務づけられる税金です。
こちらは自動車や固定資産の種類によって徴収金額が異なります。
入湯税(市町村のみに発生する関節税)
鉱泉浴場のある市町村が、入湯客に対して徴収する税金です。
目的税として徴収され、鉱泉浴場の保護などに当てられています。
海外の税法の特徴
日本ではこのように様々な種類の税金が設けられています。上記の代表的な税金の他にも細かく税法が定められており、中には複数の種類の税金を納めている方も少なくありません。
反対に海外の税法はどのような特徴があるのでしょうか。
こちらは国によっても税法が異なりますが、海外の代表的な税法をピックアップして紹介すると共に、移住先として人気のドイツに注目して税法をご紹介します。
海外における消費税の違い
まずは消費税についてです。
日本では現在10%の消費税が設定されていますが、他国ではこのように定められています。
国 | 消費税率 |
---|---|
ハンガリー | 27% |
ノルウェー | 25% |
オランダ | 21% |
イギリス/フランス | 20% |
中国 | 17% |
ニュージーランド | 15% |
タイ | 7% |
台湾 | 5% |
このように、消費税はアジア圏が10%前後と定められているのに対し、ヨーロッパ圏を始めとした諸外国では20%前後に設定されている所が多いのが特徴です。
ただし、消費税は食料品を始めとした生活必需品や、医療費には加算されない国もあり、消費税の対象は日本と大きく異なります。
所得税について
所属税の税率も国によって異なります。
下記、所得税を徴収する国の中で代表的なパーセンテージを表にまとめました。
国 | 最低税率 | 最高税率 |
---|---|---|
イギリス | 20% | 45% |
アメリカ | 10% | 39.6% |
日本 | 5 | 45% |
中国 | 3% | 45% |
ドイツ/フランス | 0% | 45% |
シンガポール | 0% | 22% |
このように、最低税率が0%に設定されている国も多く、富裕層にとっては日本国内に住み続けるよりも徴収金額を抑えられます。
またこれに加えて日本は所得によって別途住⺠税も加算されますので、富裕層の支払い金額は高くなる傾向があるでしょう。
相続税・贈与税の違い
次に、日本と諸外国における相続税や贈与税の違いについて、比較しながら解説します。
相続税に関しては現在諸外国で、このような税率が設定されています。
国 | 最低税率 | 最高税率 | 最低限課税 | 配偶者免税 |
---|---|---|---|---|
日本 | 10% | 55% | 3,600万円 | 遺産額の半分 |
ドイツ | 7% | 30% | 5,400万円 | なし |
フランス | 5% | 45% | 1,350万円 | あり |
アメリカ | 39% | 18% | 651,60万円 | あり |
このように各国を表で比べるとわかるように、日本は配偶者免税として遺産額の半分が対象となるものの、税率は高めに設定されています。その反面、アメリカは税率が日本より高めに設定されていますが、課税最低限額が6億を超えてからとなるため、余程の富裕層でない限り相続税が発生することはありません。
またドイツやフランス各国は税率が低めに設定されていることに加え、ドイツの場合は配偶者免税がないものの、余剰調整分という救済制度が設けられているのが特徴です。余剰調整分とは故人の配偶者の財産増加分が、残された配偶者の財産増加分を越えた場合に、差額の2分の1までが非課税となります。
またフランスは課税最低限額が低く設定されているものの、夫婦の財産は基本的に共有財産と考えられるため、配偶者に相続税が発生する事がほとんどありません。このように他国では、様々な免税措置が設けられています。そして、生きている人から財産を譲り受ける際に発生する贈与税は、日本は税率55%で設定されている中、他国のほとんどは25%〜40%と低めの税率で設定されているのが特徴です。
ですが、その分イギリスではキャピタルゲイン課税が化されるため贈与税が結果として高くなります。
反対に日本の贈与税は年間110万円まで控除額が設けられているため、低い金額の贈与に関しては節税対策ができるでしょう。
ドイツの税金の種類や日本との租税条約について
このように各国では、税金に関して様々な違いがあるのです。
ここからは富裕層の移住国として人気の高いドイツで行われている代表的な税金の種類や租税条約について解説します。
所得税
ドイツでは年間6ヶ月以上ドイツに居住する場合に、給与を始めとした資産所得が発生する場合に、国内外を問わず発生した所得が課税対象となります。
所得税の収益と税率の関係性は下記の表です。
税率 | 収益(年収) |
---|---|
0% | 9,168ユーロ以下 |
14% | 9,169ユーロ〜14,254ユーロ |
23.97% | 14,255ユーロ〜55,960ユーロ |
42% | 55,961ユーロ〜265,326ユーロ |
45% | 265,327ユーロ以上 |
税率は年によって改定されていますので、こちらは現段階での税率となります。
また、滞在が6ヶ月未満、または就労雇用期間が183日未満の場合は、ドイツ国内で得た資産に関してのみが対象です。これは日本とドイツの間で結ばれている、二国間租税条約が理由となります。二国間租税条約では日本、ドイツ国籍の方はこちらの所得税が該当しますが、国籍が変わる場合は別途租税条約の内容によって所得内容が変わってくるのが特徴です。
また、夫婦世帯は単身世帯に比べると所得税が優遇されており、夫婦世帯の方が課税対象年収が少しだけ高めに設定されています。
また所得税とは別に連帯付加税と呼ばれる税金が設けられているのも特徴です。こちらは単身世帯夫婦世帯に関係なく発生するもので、個人所得に対して5.5%の税金が課せられます。
そのため支払い金額は結果として共働き夫婦世帯の場合それぞれに連帯付加税が発生する分、トータル的には支払い金額が増える計算です。
日本同様所得金額によって所得税金額などは変動しますが、日本と比べると最低税率が低く設定されているため、富裕層に限らずにドイツ移住を行った方が、結果として支払い金額を安くなる傾向にあります。
付加価値税
ドイツでは消費税という税金は設けられておらず、付加価値税という税制が設けられています。こちらは日本の消費税同様、商品やサービス提供に対して税率が発生するシステムですが、日本とは制度が異なる部分もいくつかあります。
まず税率は、商品やサービスの内容によって異なります。
食料品や書籍を始めとした普段の生活に関わる商品購入に関しては、軽減税率が適用され税率7%を付加価値税として収めますが、お酒や飲食店での食事の場合は軽減税率ではなく、標準税率という税率が適用されるのが特徴です。
標準税率は19%と定められています。
また輸入品に関しては別途輸入売上税が課せられており、こちらも商品によって税率が変わるのが特徴です。
ただし、不動産賃貸や不動産取引、保険や医療、金融や郵便、金融に関して発生する商品、サービス購入に対しては、付加価値税は発生しません。
そのためこれらの項目に該当する取引を多く行っている場合は、日頃の生活での税金支払いも減らすことができるでしょう。
営業税
営業税はドイツ国内で事業を営む場合に発生する課税制度です。
個人の所得に発生する所得税と連帯付加価値税に加えてこちらも発生します。こちらも所得に対して税率が異なるのが特徴です。
ただし、芸術家や弁護士、医師などいわゆる個人事業主、自由業者と該当する場合は営業税は課税されません。
その分3.5%の共通課税率に、各都市が毎年設定している賦課率が加えられた税率が適用されます。
日本で言う所の法人税と似たような制度ですので、ドイツ国内で事業を営む訳ではない場合は深く考える必要はないでしょう。
売上税
事業を営む場合、売上税に関してもチェックしておきましょう。
こちらは税率が基本19%で、人を雇った場合などに発生する税率です。
たとえばフリーランスの通訳を雇った場合など、売上税として19%がプラスで加算されます。
もしも時給50ユーロで雇った場合は、50ユーロに加えて19%を課税した59.90 ユーロが請求される仕組みです。
ただし、年収が17,500ユーロ以下の場合はこの売上税は免除となります。
こちらはクラインウンターネマーと呼ばれる免税制度です。
そのためそこまでの金額を年収として稼いで居ない場合は、クラインウンターネマーとしてこちらを節税できるでしょう。
ただしこの免税制度を利用する場合は、事前に現地の税務署などで相談が必要です。
犬税
こちらはドイツを始めとした一部国で設けられている税制です。
ドイツでは日本と異なり犬を飼っている方を対象に課税がされます。
犬を飼い始めてから 1ヶ月以内に犬を登録し、住んでいる地域に合わせて年間支払金額が決まる仕組みです。
たとえば下記地域ではこのくらいの税率を支払います。
州名 | 1匹目(年間) | 2匹目(年間) | 3匹目以降(年間) |
---|---|---|---|
ベルリン | 120ユーロ | 180ユーロ | 180ユーロ |
ドルトムント | 156ユーロ | 204ユーロ | 228ユーロ |
ミュンヘン | 100ユーロ | 100ユーロ | 100ユーロ |
ただし盲導犬などの介助犬の場合はこの犬税に該当しないことがほとんどです。
介助犬として犬を飼う場合は事前に問い合せが必要ですので忘れずに免税の手続きを行いましょう。
教会税
教会税は日本にはない税金となりますが、自身の宗教によって支払いがあるかどうかが異なります。カトリック、プロテスタント、ユダヤ教の方のみを対象に徴収する税金ですので、 無宗教や仏教の方などは対象となりません。
ですが現地の会社に勤めている場合、事前に申告をしないと給与から自動天引きとなります。ドイツ現地の会社で雇用される場合は必ず、教会税の支払い義務がないことを申告しておきましょう。
ドイツの社会保障
このようにドイツでは様々な種類の税金が発生しますが、その分、社会保障制度も充実しています。
日本に比べるとサポート面が非常に充実している点も多いため、合わせてチェックしておきましょう。
小学校から大学まで学費無料
ドイツでは小学校から大学まで公立の学費が全て無料となります。
文房具など勉強に必要な道具の支給も行われますので、教育面に特化していると言えるでしょう。
ただし私立の学校はこちらの保証制度は対象外となりますので注意が必要です。
児童手当・保護者手当て・保護者手当てプラス
育児出産休暇中に就労が出来ない場合も、国で保証手当てを設けています。サポート期間は14ヶ月間設けられており、仕事が出来ない場合も安心です。それに加えて産後に仕事を再開した人は、保護者手当てをもらえる期間が延⻑される保護者手当てプラスという制度も導入しています。
子育てをしながら働くママに優しい制度が充実しているのもドイツの大きな特徴です。
まとめ
このようにドイツでは日本と比べると異なる税制が設けられています。
低所得者に対しては所得税率0%、富裕層に対しては課税徴収がされますが、その分社会保障が日本に比べて充実している部分も多く、暮しやすさはお墨付です。
ファミリー層の場合は特に社会保障を始めとした子育て世代向けサポートが充実していますので、移住に向いているでしょう。
安全に海外移住をしたい方へ
税の分野は毎年のように税制改正があり、素人の付け焼刃では節税目的で海外移住したつもりが脱税になっていることも多く、「国際税務」という非常に高度な知識が要求されます。
もしあなたがもっとも安全かつ効率的に海外移住をしようと考えているとしたら、行うことはただひとつ。それは、「海外移住に強い専門家」に相談することです。
弊社では、監査法人や外資系コンサルティング、元国税庁出身など豊富なキャリアを持つメンバーが海外展開を全力で応援します。
なお、当社は海外移住などの国際税務に特化したアドバイザリー集団ですので、顧問税理士の方が別にいらっしゃっても構いません。セカンドオピニオン(専門的意見)としてアドバイスさせて頂きます。
是非、お気軽にお問い合わせください。